治療に専念するために-交通事故被害者が弁護士に相談するタイミング
交通事故の示談は、専門家ではない一般の方にとっては「難しい」と感じることもあります。
相手方の保険会社は「交通事故のプロ」なので、上手に不利な結論を押しつけられてしまう可能性もあります。
示談交渉で困ったときには、弁護士のサポートを受けることが有効です。
しかし、実際の交通事故被害者の方は、「弁護士に頼むと費用の方が高くなるかもしれない」という不安や、「弁護士にいつ相談・依頼したらよいか」「どのような事故で弁護士に相談・依頼すべきか」がよくわからないという人も少なくないと思います。
そこで、今回は、弁護士に交通事故示談について相談・依頼すべきタイミングや具体的ケースについて解説します。
1 交通事故示談の基本的な流れ
まずは、交通事故発生から示談終了までの基本的な流れを確認しておきましょう。
交通事故が発生したときには、速やかに警察に通報し、事故を届け出ます。
交通事故でケガをしたときには、必ず「人身事故」として届け出てください。
人身事故として届け出なければ、事故状況を詳しく調査した「実況見分調書」が作成されません。
また、物損事故として処理したことを原因に相手方(保険会社)から治療費の支払いを拒絶される場合もあります。
事故現場での処理が終わったら、可能な限り速やかに医師の診察を受けます。
交通事故によってケガをしたときには、必要な治療をしっかり受けます。
治療を怠ると示談交渉で不利な結論となってしまうことがあるので、注意が必要です。
交通事故の示談は、医師による「治療の終了(症状の固定)」後に開始するのが基本です。
治療が終了しなければ、「損害賠償の額が明確にならない」からです。
治療中に示談を成立させてしまうと、「本来受け取れるはずだった補償」を受け取れなくなる可能性があるので注意が必要です。
交通事故の示談は、「治療終了までに掛かった費用」「治療期間に応じた慰謝料」をそれぞれの「過失割合」に応じて負担することを決める交渉です。
また、治療によっては回復しない症状(後遺障害)が残ってしまったときには、後遺障害の症状に応じて後遺傷害慰謝料を支払ってもらえます。
「治療終了後(症状固定後)に示談を開始すべき」なのは、治療が終わってみないと後遺障害の有無を判断できない場合もあるからです。
2 弁護士に相談・依頼する時期
交通事故の示談において「思うように進まない」「自分では判断できないことがある」「相手方の対応(提示額)に不満がある」といった悩み・困りごとを抱える人は少なくありません。
そのようなときには、弁護士のサポートを受けることがとても有効です。
しかし、一般の方のほとんどは「弁護士に何かを依頼する」ということに慣れていません。
そのため、「交通事故の示談の依頼はいつしたらよいのか?」がわからないことが少なくありません。
⑴ 弁護士の職務
弁護士は、依頼人の方の悩み・不安な点を払拭したり、依頼人が正当な利益を確保するためにサポートしたりすることを職務としています。
したがって、交通事故の示談の場合でも、「わからないこと」「困ったこと」「不安なこと」が生じたときには、いつでもご相談いただいてかまいません。
「わからないことをそのままにしておく」と不利な結果を強いられることにもなりかねません。
交通事故の示談は、今後の健康維持や安心できる生活のために、とても重要な交渉です。
⑵ 弁護士に依頼すると費用倒れになる可能性が高い場合
弁護士に示談を依頼すれば成功報酬などの費用がかかります。
したがって、「物損事故」や「通院の必要がほとんどなかった軽微な人身事故」では、弁護士に示談を依頼すると、損害賠償額よりも弁護士費用の方が高くなる可能性があります。
しかし、交通事故の被害者が自分で示談交渉する場合であっても「弁護士相談」を活用することが有益であることも少なくありません。
⑶ 治療終了後・示談金の提示後で良い場合
弁護士に相談・依頼する時期として最も一般的なのが、治療終了後に「相手方から示談金を提示された段階」です。
後遺障害が残る心配もなく、治療期間も一般的な期間である場合には、治療終了後・示談金提示後の相談・依頼で問題がない場合が多いと思われます。
なお、交通事故によるケガの治療期間は、実務の上では「打撲1か月」、「むちうち3か月」、「骨折6か月」が相場であるとよくいわれます。
後遺障害もなく治療期間も一般的である場合の示談がもつれるのは、「過失割合についての認識の不一致」が原因である場合が少なくありません。
交通事故の記憶は、日が経つにつれ、あやふやになっていくことがあります。
万が一の場合に備えて、交通事故の状況は、事故直後の記憶が明確なうちにメモを残す、事故直後に現場をスマホで撮影するといった措置を講じておくと、相談・依頼の際に役立つことが多いです。
⑷ 早期に弁護士に相談・依頼した方が良い場合
次のような場合には、治療終了(症状固定)を待たずに、早期の段階から弁護士に相談・依頼することをお勧めします。
- ・死亡事故の場合
- ・実況見分に立ち会えないほどの重傷を負った場合
- ・後遺障害が残る可能性があるとき
- ・長期間の治療が必要なケガをしたとき
- ・治療中にもかかわらず「治療費打ち切り」を通告されたとき
- ・相手方の保険会社・示談代行を依頼した自分の保険会社の対応に不安があるとき
- ①重大事故の場合
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死亡事故が典型例ですが、事故直後の処理に被害者自身が立ち会えないような場合には、早期に弁護士に依頼することをおすすめします。
事故状況を当事者間で正しく共有することは、「過失割合」について協議する際に必須です。
しかし、被害者本人が現場検証などに立ち会えないときには、相手方の一方的な主張・認識に基づいて交通事故の状況が把握されてしまう可能性があるからです。
特に、死亡事故や重傷事故では、損害賠償額も高額となるため、過失割合が10%変わるだけで、損害賠償額が数百万円以上減額されてしまうこともあります。
重大事故では、「弁護士に依頼すると費用倒れになる」こともまずありません。
- ②後遺障害が残る可能性があるとき
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交通事故で頭部に重大なダメージを受けたような場合には、重篤な後遺障害が残る可能性が高いといえます。
後遺障害が残った場合の補償は、第三者機関による「後遺障害の認定」の結果により金額が決まります。
適正な後遺障害の認定を受けるためには、治療段階から弁護士によるサポートが必要となります。
弁護士に依頼せず示談した場合には、後遺障害の認定を相手方の保険会社に一任する方法(事前認定)が利用されることが一般的です。
しかし、利害関係の対立する相手方保険会社は必ずしも「被害者のために熱心に手続きをしてくれる」とは限りません。
相手方保険会社に任せたために、認定された後遺障害等級が下がってしまえば、高次脳機能障害のような重大な後遺障害のときには、数百万円、数千万円と賠償額(慰謝料・逸失利益)が減額されてしまうこともあります。
後遺障害の認定に不服があるときにも弁護士にご依頼いただいて「不服申し立て」することはできますが、最初の認定で適正な等級を認めてもらえた方が好ましいのはいうまでもありません。
- ③治療が長期化したとき・治療費打ち切りを通告されたとき
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交通事故でケガを負わされたときには、十分な治療を受けるべきです。
必要な治療を正しく受けることができなければ、後遺障害が残ってしまう可能性もあります。
しかし、治療期間が「保険会社が考える相場」を過ぎたときには、治療途中でも「治療費の打ち切り」を通告される場合があります。
また、被害者が治療費を立て替えているときには、長期の治療が経済的な負担となることもあるでしょう。
このようなときには、自賠責保険への損害賠償請求を先行させることで、「治療費負担の心配」をすることなく、十分な治療を受けることができます。
自賠責保険への請求を先行させるためには、被害者自らが自賠責保険に保険金(損害賠償)の支払いを求める手続きを行う必要があります(被害者請求)。
一般の方にとって、被害者請求は手間暇のかかる手続きです。
弁護士に示談をご依頼いただければ、被害者請求の手続きも弁護士が代わりに行うことができます。
長期の治療が必要なケースでは、相当額の入通院慰謝料(傷害慰謝料)を請求することが期待できるので、「費用倒れ」になる心配もほとんどありません。
また、むちうち症のようなケガであっても治療が長期化するときには、後遺障害が残る可能性もあります。
治療期間中から弁護士に依頼することで、後遺障害認定のサポートをすることもできます。
- ④保険会社が信用できないとき
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相手方の保険会社の対応に不安・不満があるときには、自分で示談することが大きな精神的な負担となることも少なくありません。
また、自分の保険会社に示談代行を依頼しているときでも「対応が遅い」「相手方の言うなりになっている」と感じる場合もあるかもしれません。
このような場合に弁護士に示談を依頼いただければ、「不愉快な思い」をすることがなくなります。
交渉のすべてをお任せいただき、治療に専念、普段どおりの生活を送ることが可能となります。
3 「弁護士費用特約」に加入している場合
最近では自動車保険に「弁護士費用特約」を付帯している人が増えています。
弁護士費用特約をつけていれば、「契約で定められた上限額」までの弁護士費用は、すべて自動車保険から支払ってもらえます。
したがって、弁護士費用特約があれば、弁護士費用の負担(費用倒れ)を心配することなく、「軽微な交通事故」でも「事故直後」から弁護士に相談・依頼することができます。
弁護士費用特約は、加入率の割に利用が少ないのが実情です。
「弁護士費用特約に入っていることを知らない」「弁護士費用特約の使い方がわからない」人が多いことが原因ではないかと思われます。
弁護士費用特約は、デメリットがほとんどない「被害者になったときの重要な備え」です。
良い弁護士の選び方 交通事故被害者の強い味方-弁護士費用特約の重要性とメリット